パソコン検証編Part.3-6「CPUクーラー検証レビュー AK620」後編

今回はDeepCool製のAK620後編です。
前編では装着や干渉についてみてきましたので後編でテスト結果をみていきます。


標準の電力制限でのテスト
ここからは温度を見ていきましょう。
まずは標準の電力制限でのテストから。このテストはあまり言うこともないのでパパっと見てきます。シングルファン構成での検証もしたのでそれぞれ紹介していきます。(トリプルファンはあまりメリットがないと判断したため省略します)
デュアルファン アイドル


まずは標準構成から。ファンの回転数はマザーボードの自動制御で、このような設定になっています。
10分間のアイドルテストではこのような結果になりました。
中央値で消費電力は26.1W、FAN回転数は608RPM、CPU温度は40℃となりました。今回検証機の構成と設定はアイドル時の消費電力が高くなる設定のためやや高めの温度になっています。(メモリーの設定をXMPからJEDECに変更するのとPCIeのASPMを有効にすると標準レベルの消費電力になります。)
デュアルファン Cinebench R23


つぎにCinebnchR23を1周回したときの結果です。負荷がかかっているときの平均値で消費電力は173.0W、FAN回転数は1398RPM、CPU温度は72.7℃となりました。消費電力がきれいな2段階のグラフになっており、サーマルスロットリングは起こっていないことがわかりますね。最高温度は89℃でしたが本来の電力制限でも問題ないように感じます。一応スコアはこんな感じでした。
デュアルファン FF15


つぎはFF15ベンチです。負荷がかかっているときの平均値で消費電力は109W、FAN回転数は1092RPM、CPU温度は67.5℃となりました。ゲームではこのグラフのようにデータ読み込み時など一時的に消費電力が上がることはあるものの高負荷な状態が続くことはめずらしいです。ベンチ台でのテストのためグラボの排熱の影響が少ないということもありますが、十分問題なく冷却できていると思います。グラフにはGPU温度も載せてありますが、平均値で68.8℃。そして負荷が高くなる戦闘シーン以降の騒音値も測りました。こちらはランダムのタイミングで12回測定した平均値になりますが40.4dBとなりました。スコアはこんな感じです。
シングルファン アイドル


つぎにシングルファン。ファンの回転数はマザーボードの自動制御で、このような設定になっています。
10分間のアイドルテストではこのような結果になりました。中央値で消費電力は27.7W、FAN回転数は611RPM、CPU温度は40℃となりました。
シングルファン CinebenchR23


つぎにCinebnchR23を1周回したときの結果です。負荷がかかっているときの平均値で消費電力は172W、FAN回転数は1387RPM、CPU温度は73.4℃となりました。シングルファンでもサーマルスロットリングは起こっておらず、本来の電力制限でも問題なく冷却できそうです。一応スコアはこんな感じでした。
シングルファン FF15


つぎはFF15ベンチです。負荷がかかっているときの平均値で消費電力は113.0W、FAN回転数は1290RPM、CPU温度は73.0℃となりました。標準構成よりもCPU温度が5℃高くなっていますね。GPU温度は平均値で69.1℃とほぼ同じで、騒音値は12回の平均値で40.6dBとなっています。スコアはこんな感じです。
TDPごとのテスト
そしていよいよTDPごとのテストです。ファンの回転数は先ほどと同様マザーボードの自動制御です。標準構成・シングルファンそれぞれ各TDPの結果を一つのグラフにまとめてみました。
デュアルファン


まずは標準構成から約10分間のテストで中央値は消費電力の高い順に89℃、88℃、84℃、79℃、74℃、68℃、61℃、52℃、44℃となりました。200W以上のテストでは電力制限と実際の消費電力に差が生じたため、消費電力の中央値をカッコで記載しています。

また200W以上のテストでは温度のブレが大きくなっていますが消費電力はこのようにどのテストでもほぼ一定です。そしてこの結果からAK620の冷却性能は215Wということがわかります。ただしこの結果はあくまで今回の検証環境での結果なのでわたしの動画ではCS(CoolingScore)という造語とstandardの頭文字をとってCSsと勝手に呼びますが、AK620のCSs=215Wです。
シングルファン

つぎにシングルファン。中央値は高い順に89℃、89℃、83℃、77℃、72℃、65℃、57℃、48℃となりました。となりました。先ほどと同様TDPと実際の消費電力に差があるものは実際の消費電力の中央値をカッコで記載しています。シングルファン構成の冷却性能は203Wのようですね。
ファンを減らしたものをCS-と勝手に呼びますが、AK620のCS-=203Wです。
このグラフでも温度の違いは見てとれますが、ちょっとごちゃごちゃしているのでもっとシンプルにすべての中央値だけをプロットしてみました。

そのグラフがこちらです。オレンジの点が標準構成、青い点がシングルファンの結果です。点線は傾向線で、このグラフではきれいな直線になりました。シングルファンは全体的に性能が低下していますが、CSs=215W、CS-=203Wと12Wも差がありますのでファンが減ることの代償はそれなりに大きいです。
FANの回転数を変化させてのテスト
つぎにFANの回転数ごとのテストです。回転数はマザーボードのユーティリティで10%ずつ変化させて測定しています。
デュアルファン


まずは標準構成から。先ほどのテストでCSs=215Wということが分かったので、CSsを超える負荷が安定してかけられるTDP250Wで測定しています。どのテストもサーマルスロットリングが働いて消費電力が下がっているため中央値は約10分間のテストの内最後の1分間のみで求めています。中央値は回転数の高い順に215W、211W、211W、207W、204W、195W、180W、159W、152W、58Wとなりました。回転数10%は20%と回転数が変わらなかったため省略しています。
回転数0%の結果をCS₀と呼ぼうと思いますのでAK620のCS₀=58W。

また赤い点線でnoctuaのFANデュアル構成に交換した時の性能を入れてありますが、CSM (CSMax)と呼ぼうと思いますので、AK620のCSM=210Wとなりました。CSs とCSMが逆転していますので付属のファンでヒートシンクの性能が最大限発揮されていることがわかります。
シングルファン

つぎにシングルファン構成。CS-=203WだったのでCS-を超える負荷が安定してかけられるTDP225Wで測定しています。中央値は回転数の高い順に203W、202W、199W、194W、186W、177W、158W、130W、113W、58Wとなりました。赤い点線は先ほどと同じでCSM=210Wです。シングルファンではかなりグラフが下にさがりましたね。ファンの回転数が低いと性能低下が大きく、最大で40W近く冷却性能が下がっています。

回転数ごとの結果もそれぞれの中央値だけプロットしてみました。傾向線が緩やかなカーブを描いていますね。この傾向線を見るに回転数に応じて性能は上がっていますが、回転数が高くなるにつれてほぼ平らなグラフになっています。また傾向線どうしの差が一番大きいのは20%あたりですのでシングルファンでも回転数を維持すれば性能への影響は少なくできます。

そしてファンの性能もグラフにしてみました。まずは回転数ごとの風量と騒音値のグラフです。風量の傾向線は緩やかな曲線を描いていますね。標準構成とトリプルファンで回転数が若干違うため傾向線がややずれていますが差は1%以下なので誤差の範囲内かなと思います。ファンの数が違うのに風量は増えないの?って思う方もいると思いますが、CPUクーラーの場合ファンが直列に配置しているためファンが何個になっても風量は増えません。直列にファンを増やした場合に増えるのは風量ではなく静圧です。静圧に関しては測定の仕方が分からなかったため申し訳ありませんが省かせていただきます。

騒音値は環境音以下が測定できないので傾向線はありませんが、なんとなくこんなカーブを描いているんじゃないでしょうか。騒音値は回転数に対し指数関数的に増加しているのがわかりますね。

ここでちょっとFF15ベンチのテスト結果の話に戻ります。FF15ベンチでは騒音値が40dBを超えていたのですが、ベンチ中のCPUクーラーの回転数を考えると騒音値は最大でも35dB以下だったことがこのグラフからわかります。つまりゲーム中の騒音値はCPUクーラーの騒音値ではなく、ほぼグラボの騒音値によるものだったということになります。

話を元に戻しますが、このグラフの結果を風量と騒音値を軸にプロットしたグラフがこちらです。このグラフのほうが風量の増加に対し騒音値の増加が顕著に高くなるのが分かりますね。

さらに騒音値を回転数別の冷却性能と照らし合わせたグラフがこちら。これを見てもやはりファンの回転数による性能上昇より騒音値の上昇が目立ちますね。わたし個人の感覚ですがこの環境音に対し+2dB程度(36dB未満)であれば気にならないレベル、+4dB(38dB)を超えてくるとなんかパソコン頑張ってるなぁって感じるレベルですので、標準構成でファン100%回転時はかなりうるさいです。少なくとも回転数を80%以下に抑えるといいんじゃないかなと思います。70%まで抑えるとめちゃくちゃ静かになります。
わたしの動画では36dBを切るもっともいい結果をCSLN(LowNoise)と呼ぶことにしますので、AK620のCSLN=204Wです。
シングルファンでも100%回転時は38dBを超えてきますのでちょっと動作音が気になりますね。こちらも回転数を90%以下に抑えれば十分静かになりますが、標準構成でも回転数を絞れば性能を維持しつつ静穏化は測れます。実際CS-=203W、CSLN=204Wとほぼ同じ数値ですので、騒音値だけでみると静穏性のためにシングルファンにするのはあまりいい手段とはいえないかもしれません。やはり高さの高いメモリーとの干渉を避けるのが一番の目的になりそうです。

ただこのAK620、このグラフからは分からない大きな欠点が2つがあります。
それは温度変化で嫌な音がするんです。AK400ですでに経験していたので予想はしていましたが、検証中に何度も「パキッ」って音がするんです。AK620のトップカバーは爪とねじで固定されているのですが、金属とプラスチックの熱膨張率の違いで変形が生じ、固定が若干ずれる際に音が鳴っているんだと思います。たまに鳴る程度なのですが、不安にさせる音なので個人的にはかなり気になります。カバーを外したら鳴らなくなったのでおそらく間違っていないんじゃないかなと思います。カバー自体の見た目は好きなのですが、そのせいで音が鳴るのはちょっと・・
それならカバーはいらないかなとも思います。
そしてひとつ、これもAK400の時に触れている内容なのですが、ファンの共鳴や共振です。
回転数40%前後と70%~90%あたりで二つのファンが共鳴したようなうねり音がするため見かけの騒音値以上に動作音が気になります。さらに個体差もあるかもしれませんが、付属ファンの振動がやや強めで高回転時にファンの振動がヒートシンク本体に伝わり共振がおこります。手で触って確認しただけなのでわたしの感覚による判断ですが、AK620はかなり振動が大きいように感じました。

原因をいろいろ考えてみましたが、ファンのクオリティがいまいち、ヒートシンクへの固定が弱すぎる、防振ゴムが薄いもしくはこれらの複合なのかなと思います。共振はシングルファンでも起こっていましたがシングルファンの時は気にならない程度ですみます。そのためシングルファンでの運用の隠れたメリットにとも言えますね。40%前後の共鳴を避けるのは難しいですが、騒音値的には大きくありませんので、共振を避けつつ騒音値を抑えるにはファン回転数を70%以下にするのがいいのかなと思います。このあたりは個人差や個体差によると思いますので、自分にあった正解を見つけてください。
FANレスのテスト

そして最後のテスト。TDP65Wでファンレスのテストをやってみました。FAN回転数0%での負荷テストはすでに1つやっていますが、低発熱環境でのどのように推移するのか気になったのでグラフにしました。10分間のテストでは温度が一定になるところまではいけませんでしたが、CS₀=58Wだったのでこのまま負荷をかけ続ければ100℃に達してしまうんじゃないかなとおもいます。ファンレス用に設計されているわけではありませんし、このあたりはほかの製品と比較しながらのほうが分かりやすいので詳しくは別の動画で考察します。


以上で結果の紹介は終わりです。
最後に性能をまとめたグラフを1画面にまとめておきましたので、よりじっくり見たい人はこの画面をスクショしておいてください。またCPUの消費電力って普通どれくらいなの?って人向けに各CPUの仕様上のTDPとわたしが実際に測定したことのあるCPUのCinebench実行時の消費電力を一覧にしておきましたので参考にしてください。
そして重要なのはこの結果はあくまで検証環境での結果です。温度は使用パーツや設定、ケースのエアフローなどあらゆることに影響されますので必ずしもこの結果通りになるとは限りません。とくにCPU内部の設計や発熱密度は温度を左右する大きな要因になりますので、ぜひいろんな経験をして最適解を見つけていってください。
まとめ
メリット

デメリット

おすすめ度

※AMaGiのおすすめ度は☆1(干渉なしなら☆3)
まず最初に断っておきますが、バックプレートの干渉が致命的なため、注意喚起もこめてこの評価としました。干渉で取り付けられないならまだましだったのですが、最悪マザーボードを壊してしまいますのであまりにも致命的です。くれぐれも注意してください。
ただ干渉する製品は一部の製品に限られますので干渉を除けば☆3かなと思います。
冷却性能が高く、デュアルタワーでもASUSのROGシリーズと干渉しないなどメリットもありますが、動作音がいろいろと残念。個体差の可能性もありますが、DEEPCOOL製品はいくつか持っていてこの個体だけの問題ではありませんので個人的には個体差と考えるのは難しいです。調整である程度は回避できますが、見た目が一番好きなCPUクーラーで期待していただけにちょっと残念な結果でした。
なによりもバックプレートの干渉が早急に改善されることを願っています。
ほかにも話したいことはたくさんあったのですが、重要なところを中心にまとめたつもりです。ほかの製品もこんな感じで徹底的に紹介・検証していきますのでこれからもお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは今回の動画はこの辺で終わりたいと思います。
この検証編はわたし個人の考察です。見解は人それぞれですし、用途によって製品に求めるものは変わってきます。いろんな動画やサイトを見て自分にとっての正解を見つけてください。
1人2人の意見だけで決めつけるのではなく、たくさんの意見を取り入れていってください。
