グリス

パソコン検証編Part.2-3「グリス検証レビュー第3回」

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 こんにちは!AMaGiです。
グリス比較の第3回目は、わたしがどうしても気になったことがあったのでより細かく調べてみましたー!

グリスによる差は前回の動画で見てもらった通りなのですが、じゃあなぜそんな結果になったのか。高性能グリスは実は大したことないの?ってなりますよね?
そこで前回の結果について物理学の計算式を用いて実際どうだったのか見ていきたいと思います。

熱伝導率について

 まず熱伝導率とはその物体の中を熱がどれだけ伝わるかを数値化したもので、W/mKという単位で表されます。製品情報にもよく書かれているこれですね。この熱伝導率は厚さ1mの物体の両端に1℃の温度差があるときに1m²の面積を移動する熱量を表しており、実際に伝わる熱量は熱伝導率に加えて厚さ・温度差・面積という3つ要素に左右されます。グリスで言うと、グリスの厚み・CPU表面とCPUクーラー表面の温度差・CPUの表面積に左右されるということになります。

この中で簡単にわかるのはCPUの表面積ですね。今回検証に使用したi7-10700Kは縦×横が29.1mm×28.75mmなので表面積は836.625mm²です。
次にわかりそうなのはグリスの厚みかなと思ったのですが・・これがかなり大変でした。なんとか測る方法がないかなぁといろいろ試してみたのですが、正確に測定する方法は個人ではとうてい無理そうでした・・。
でもわたしなりにできそうなことをいろいろ試してみましたので、それをもとに考察していこうかなと思っています。

実際に計測

 まず最初に試したのが引き抜き試験です。
細いワイヤーをCPUとCPUクーラーの間に挟んで引き抜けるか引き抜けないかで隙間を予測しようという安易な考えでやってみたのですが・・・これが大失敗w
最初は髪の毛を挟んでみたのですが、ひっぱってみるとすぐに切れてしまったので髪の毛より強そうな細いワイヤーを海外から輸入してみました。

ワイヤーは0.0xmmという細いものを用意したのですが、グリスの厚みに対してワイヤーが太すぎたようでCPUとクーラーを傷つけてしまいました・・
何度も何度もグリスを塗り直しているので全体的に傷だらけですが、真ん中あたりに一際目立った大きな傷が1本入っています。
原因は柔らかいワイヤーなら装着圧で変形してくれるかなという考えが甘かったのと、ワイヤーはかなり細いものも買ったつもりだったのですが、結局測ってみると細いものはどれも太さがいい加減で表記されていた数値ほど全然細くなかったことです。

精度の高いものは個人では購入できそうになかったのと、細いワイヤーは結局引き抜き試験で切れてしまうという欠点も判明したのでこの方法は断念しました。
他にもいろいろ試行錯誤し、とある材料を使って間接的に厚さを測る方法で測定することにしました。この材料は本来ある業務で形状の適合性や接触状態の確認のために使う専用の材料で、用途は少し違いますがほかにいいものが思いつかなかったのと、用途が似ているといえば似ているので、この方法を今回の検証で採用します。

この材料をグリスの代わりに塗り、CPUクーラーを装着。硬化後取り外し、厚みを測定しました。材料はグリスに合わせて柔らかいものと硬いもの2種類で検証しました。
まずは虎徹の装着時の状態を柔らかい材料で試してみました。硬さを例えると熱伝導率が低めの柔らかいグリスと似た柔らかい材料です。硬化後の状態はこんな感じです。

最初はへら塗りも試したのですがこの材料の硬化時間の関係からへら塗りだと途中で固まってしまった為、1点盛で塗り広げています。
しっかり薄く伸びていますね。もともと精度が要求される目的に使う材料なのでCPU表面の刻印までしっかりと取れていたのがちょっと感動しました。10回試した結果はこんな感じです。取り付けのたびに厚みに差があり薄いところと厚いところの位置も変わっていてなかなか同じような状態にならないのがわかりますね。
同様に硬めの材料でも試してみたのですが、ここで思わぬ誤算が・・。

硬化時間が短すぎて、CPUクーラーの装着がギリギリ間に合わないんですw何回も試しましたが、うまく広がったのは2回だけ・・・。
平均をとりたいのでデータはたくさんほしかったのですが、硬い材料の方には硬化遅延材が存在しなかったのでここで断念しました。

TX3も同様に柔らかい材料で10回試して結果はこんな感じです。ヒートパイプ横の溝までしっかりとれていますね。ぱっと見では虎徹のほうが若干薄く見えますが、プッシュピンタイプでも思っているよりも薄く広がっていた印象です。

場所を変えながら厚みも計ってみたのですが、ここでも誤算が・・
薄すぎて測定がとにかく大変・・・めちゃくちゃ時間がかかりましたw
静電気でなんにでも吸いついちゃうし、すぐしわが寄るし、破れやすいしでもう大変でした。
身近なものだとサランラップをイメージして貰えるとわかりやすいかもしれません・・
そして更なる誤算が・・TX3の方はヒートパイプ横の溝のせいでマイクロメーターの先端では薄いところの厚みがそのままでは測れない事態に・・
曲面を測るためのアタッチメントがマイクロメーターには付属しているのですが、これを使うと測定圧が大きすぎて弾力のある素材は正しく測れませんでした。

もうここまできたら意地ですよねwはい。カットして強引に測る方法にでます。これをこうして、こうして、こうですw小さくなった分より測定が大変になりましたw
悪戦苦闘しながらもこの作業を繰り返しとにかく何度も何度も測定しました。
その結果がこちらです。

結果

 柔らかい材料で虎徹装着時の厚みは平均0.044mm、TX3装着時の厚みは平均0.066mmになりました。
やや硬い材料で虎徹装着時の厚みは平均0.077mmでした。
硬い材料の方はすでに硬化が始まっていて伸びが悪かった可能性を否定できないのと試行回数が少ないので正しい数値か分かりませんが、柔らかい方は虎徹とTX3で400回以上測定した平均ですのでこの数値を計算に用いようと思います。

0.0数ミリと言われてもぱっとイメージがわかないと思いますので、比較用に身の回りのものも計測してみました。普段わたしがへら塗りに使っているマスキングテープは100均のもので0.091mm、ホームセンターの安いマスキングテープで0.081mm。ニチバンのよくあるセロハンテープも測ってみましたがこれでも0.051mm。生え際の細い髪の毛で0.046mmでしたので、CPUとCPUクーラーの隙間というのはかなり薄いことが分かりますね。

そして最後に温度差なのですが・・これに関してはもうお手上げです。
どうすれば測定できるのか見当もつかなかったので、今回はこの温度差については不明のままで他の項目からこの項目を考察していきます。

結果を計算

 それでは実際に計算してみましょう。
まず計算式ですが、移動する熱量 = 熱伝導率 × 表面積 / 厚さ×温度差
となります。
グリスの表面積は大きければ大きいほど熱をたくさん伝えることができるため表面積には比例し、厚さは薄いほど熱はスムーズに移動できますので反比例します。温度差に関しては熱の移動の必須条件のようなもので温度勾配に比例します。

熱伝導率を10W/mK、温度差をT℃とすると実際に移動可能な熱量は
10×(836.625×10-⁶/0.044×10-³)×T=190.142×T (W)となります。
温度差が1℃あれば190W以上は移動可能ということになります。
発熱に対して熱の移動が間に合わなければ温度はどんどんあがるはずですので、温度が大きく変化しなくなった時点でどのグリスでも今回のCPUの消費電力150W以上は維持できていると考えられます。

虎徹で温度が一番高かったグリスはTC-200だったのですが、熱伝導率は3.8なので
KTT:3.8×(836.625×10-⁶/0.044×10-³)×T=72.25398×T T=2.08 
TX3:3.8×(836.625×10-⁶/0.066×10-³)×T=48.16932×T T=3.12
となり、温度差が2.08度もしくは3.12度あれば150Wを超えることができます。

逆に一番温度が低かったのはKryonautでしたが、熱伝導率は12.5なので
KTT:12.5×(836.625×10-⁶/0.044×10-³)×T=237.6776×T T=0.64
TX3:12.5×(836.625×10-⁶/0.066×10-³)×T=158.4517×T T=0.95
となり、温度差が0.64度もしくは0.95度もあれば150Wを超えます。
それぞれ差の1.44度と2.17度はCPU温度に直接影響しますので、Cinebench実行時のCPU温度差が2度程度だったというのも納得いく結果かなと思います。

Carbonautが熱伝導率は62.5と高いのにあまりいい結果とはならなかったのはCarbonautの厚みが0.17mmとグリスに比べるとかなり分厚かったのと、シート状ですのでCPUやCPUクーラーの表面のわずかな凸凹を補償しきれず、接触面積が小さくなってしまうことが原因だと思います。
表面積をそのまま導入したとすると
62.5×(836.625×10-⁶/0.17×10-³)×T=307.5827×T
となり温度差が0.49度あれば150Wを超えますので高性能グリス並みの性能のはずなのですが・・・、検証ではこの計算から予想される結果とは異なる結果になりました。接触面積も半分とかになるわけではないと思うのでこのズレの原因は他にあるように思えます。実際のグリスの厚みが今回測定した0.044mmよりも薄いのか、Carbonautの熱伝導率が実はもっと低いのか・・何が原因なのかわかりませんが、熱伝導率ほどの性能はないようです。

用途に合ったグリスとは

 ではどういった状況なら高性能グリスが性能を発揮できるのか。それはやはりOC環境のようにCPUの消費電力が通常よりもかなり高いときか、CPUとクーラーがうまく接触しておらずグリスの厚みが分厚くなっているときではないでしょうか。

ThreadripperやXeonのようなハイエンドCPUでは消費電力は300Wを超えますし、KモデルのCPUでも電力無制限や常用レベルのOCでもそれくらいの消費電力になります。競技レベルのOCになるとさらに数百W消費電力が増えますので、高性能グリスはそういった用途にも答えられるポテンシャルがあるということです。
もし今回のCPUで600Wを想定すると
3.8×(836.625×10-⁶/0.044×10-³)×T=72.25398×T T=8.31
12.5×(836.625×10-⁶/0.044×10-³)×T=237.6776×T T=2.53
と少なくとも5.78度は差がでることになりますのでグリスによる差は大きくなります。
ただやはり一般的な用途ではそこまでの消費電力になることはないですし、消費電力の大きなハイエンドCPUは接触面も大きくなりますのであまり気にする必要はないかなと思います。前回の動画のようにたくさんの製品を比較し、数値化して初めて性能差として体感できる程度の差ですので、普通のグリスで十分です。

個人的に消費電力より影響が大きいと感じているのはグリスの厚みです。実際グリスを想定した材料でも厚さは均一ではなく、一番薄いところででは0.017mm、厚いところでは
0.103mmとかなり差がありました。それぞれの平均の厚さを見ても0.029mm~0.052mmと2倍近くも厚みが違いましたので、同じように塗って同じように装着したつもりでもそのときそのときで結果が違うという可能性が高いです。
厚みが倍になるとグリスが伝えることのできる熱量も半分になりますので、計算上厚みが倍になるのと消費電力が倍になるのは同じことです。もともと厚みがかなり薄いこともあって数値ではわずかな差が大きな差に繋がる可能性が高いのがグリスの熱伝導です。消費電力が小さければ厚みが倍になっても計算上は1℃も差はありませんので影響はほとんどないと思いますが、消費電力が大きくなればなるほどどれだけグリスを薄くできるかというのが重要なポイントだと思います。

本当にCPUが変形するか試してみた

 Intelの第12世代CPUは変形してしまうというニュースもありましたが、もし変形してCPUクーラーとの隙間が空いてしまった場合には高性能グリスの本領が発揮できるかもしれません。
わたしも12700K、12600K、12400、12100を試していますが今のところどのCPUも変形はみられず、実際どういった条件でどの程度変形するのかまったくわかりません。

Intelの発表では変形がみられても仕様の範囲内で問題はないと発表されています。ネットの情報を見るに問題がないようには見えないレベルの報告も上がっているため納得いかない部分もありますが、そもそもIntelのCPUはTjunctionという許容温度を超えない限り動作クロックが落ちることはありません。この温度をこえるかどうかはパソコンの構成にもよりますし、CPUにかけた負荷にもよります。無理のない構成で組みたて、通常利用の負荷であれば許容温度を超えることは稀なんじゃないかなと思います。
虎徹でも200Wくらいまでならなんとか許容温度以下に収めることができますし、Tjunctionを超えてもサーマルスロットリングにより性能を抑え温度を下げること自体正常な動作なので、問題がないというIntelの発表も妥当なきはします。変形の対策はワッシャーで底上げなどソケットの改造をする方法が有名なのですが、OCをする人であればもとから保証なんてありませんので改造によって保証がなくなっても自己責任なのは変わりません。

より強固な固定器具もいろんなメーカーからすでに販売されていますが、OCをしない人が温度を気にするあまり保証を捨ててまでこういった改造をするのは個人的にはリスクに見合っていない気はしています。ソケット装着圧の適正範囲なんて知らない人のほうが多いと思いますし、装着圧なんて個人では測りようがありません。もちろん自作はこだわりの塊なので、少しでも温度を下げたいだとかやってみたいという理由で自己責任でやる分にはかまいませんが、ネットの情報だけでとりあえず感覚で余計なリスクを負うのだけは止めましょう。ましてはやったほうがいいなどと広めるのは絶対にやめましょう。
いっそのこと変形してくれた方がどの程度の隙間が空いてしまうのか、本当に対策は必要ないのかなどいろいろ検証ができるのですが・・このあたりは手元のCPUが変形したら検証してみたいと思います。

わたしも普段からCPU温度は常にモニタリングして気にしている人間なのでCPU温度を少しでも下げたいという人の気持ちもわかりますが、CPUは壊れにくいパーツの1つですので普通は性能寿命が先にくるか、マザーボードが先に壊れます。長く自作をやっている人ほど温度を気にする人が多いように思いますが、その中にはTcase(ヒートスプレッダー温度)とTjunction(熱接合温度)を混同している人もおそらくいるんじゃないでしょうか。わたしも自作をはじめたころは勘違いしていましたが、Tcaseはあくまでヒートスプレッダーの温度でCPUの温度ではありません。ヒートスプレッダーの温度をTcaseMAX以下に保てば、Tjunctionをサーマルスロットリングが起こる温度以下に抑えることが出来る。というかなり曖昧な温度なんです。

第6世代のCore iシリーズまではCPUの限界温度がこのTcaseで表記されることが多かったためCPU温度をTcaseMAXの70℃前後に収めたほうがいいと思っていた人がたくさんいたように思います。当時のCPUは今ほど消費電力が大きくないこともあってCPU温度をTcaseMAX以下に抑えることも難しくはありませんでしたが、本来であればそこまで温度を下げなくても大丈夫だったというわけです。CPU温度の適正範囲が70℃や80℃以内と言われるのはこういった経緯からかなと思います。

最近のCPUの限界温度はTcaseではなくTjunctionで表記されるようになっており、100℃前後の場合が多いです。TjuncrionMAXはそのままCPUの限界温度ととらえても問題ないと思いますので設計上は100度まで耐えれるということです。ただわたしもさすがに100度まで大丈夫というつもりはなく、一時的に耐えれる温度が100度というふうに解釈していますので、普段のCPU温度は90度までに抑えるのがいいんじゃないかと思います。実際IntelのCPUの場合、サーマルスロットリングが働いた際、CPU温度が90℃を超えないように性能を自動的に調整しますので、Intelの設計上90℃に抑えるのが正常範囲だと私は考えています。最近のCPUは消費電力が大きくなったとはいえ、適切なパーツ選びをしていればCPU温度を90℃に抑えることはそこまで難しいことではありませんので、90℃を超える場合は冷却パーツの見直しや電力制限などのチューニングを検討しましょう。

これだけたくさんの種類のグリスを買ったわたしが言うのもなんですが、通常利用の範囲であればグリスにお金をかけるのはかなりもったいないと思いますので、CPU温度を気にするにしてもお金をかけるのであればまずはCPUクーラーにお金をかけることをおすすめします。

 ここまで長々と話してきましたが、今回の考察は熱の伝達に関してかなり簡略化してお話しています。CPU自体均一に発熱しているわけではないですし、CPU温度はCPU内部の熱の移動にも大きく左右されます。さらにいうと熱伝導はあくまで物質内の話です。物質間の移動は熱伝達といい、また別で考えないといけませんし、他にもグリスに影響しそうなことはあったのですが、わからないことだらけだったのであくまでグリスの熱伝導に限定して説明しています。足りない頭で必死に考えて作った動画・ブログなのでいろいろと間違っている部分もあるかもしれませんが、そのあたりは多めにみてください。

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